大統領とPR
(1/26/99@NY)
大統領の弾劾問題について、多くの人は、もういい加減飽き飽きしています。毎日「モニカ・ルインスキー」だし、手続き自体は同じようなことをやってるし、何がどうなのか、手続き自体が分かりにくいし、「それより、棚上げされているほかの大事な仕事を進めて行け」と国民は、うんざりしています。
それに対して、私はどちらかというと、興奮して事の成り行きを見守っているんです。それはなぜか?
国民に嘘をついた(裁判でも嘘をついた)大統領が、辞任しないばかりか、その政敵がどんどん辞めて行くという奇妙な現象が起こり、なおかつ国民の支持率が異常に高いからです。
「Justiceの国で、なぜ国民を裏切った大統領を、国民は支持するのか?」とアメリカ人の友人に聞いたら、「何がJusticeと言うかが問題よ。少なくともスター独立検察官側は、Justiceの側には立っていない」と言います。
このケッタイな認知に驚くと同時に、PRの大きな可能性を感じ、私は興奮しています。普通、スキャンダルは、起こす方が弱いんです。それが、今回は、突付く方が弱い。普通、スキャンダルを起こしたら、責任を取って辞めるんです。「世間を混乱させました」と言って。今回は、「国民の為に私は働く」と踏ん張って、それを国民も支持しています。
さて、日本であまり馴染みのないPRですが、アメリカでは物凄い市場規模の業界です。ホワイトハウスも業界大手のPR会社を何社も抱え、イメージアップに利用しています。昨年10月にジョン・ポデスタが大統領主席補佐官に任命されたことが、分かりやすい例でしょう。彼は、長年PR会社を経営し、メディアを使ったPRとロビー活動をしていた人です。国務次官のタルボットも元はタイム誌の編集者であり、国務省もメディア対策を重視していることが分かります。こういった人事からも政策の中身の重要性も然る事ながら、その政策発信の重要性も理解していることが窺い知れます。
相対するケニス・スター独立検察官側は、そういう意味でPRが弱い。弱すぎるんです。有能な弁護士が大きなチームで取り組んでいるという印象はあるのですが、国民の認知は、「自分の名前を売るのに必死」という印象が強い。大統領が毎日テレビで熱心に仕事をしている場面が放映されるのに対して(毎日欠かさずテレビに出るよう、意図的に撮影させています)、訴追側は、全くメディアを使っていません。今日、スター検察官が何をしているのか、全く分からない。だから弱い。
弾劾手続きが進む1月19日火曜日には大統領の一般教書演説(State
of Union)がありました。非常に具体的で、重要ポイントについてひとつずつ、順番に目標を述べていくんです。いかにも「ちゃんと国民のために仕事してるで」というポーズが見える。
最後は、信教や民族を超えて共感するテーマを唱えて、100年後の未来の話をしました。(遠い先の話をすればするほど、相対する人々の心が近づいていくんです、心理学的にはネ)誰が書いたか知りませんが、立派なスピーチでした。科学的にも。ゴールデンタイム夜9時(東海岸;8時中部時間)〜という、国民が最もテレビを見る時間を選んでいることも重要です。
こんな完璧なPRをやってたら、何も手を打ってない方は、いくら正義でも正義でなくなります。PRの世界ではPerceptions are Realityですからね。
ちなみに世界一有名な女性となったモニカ・ルインスキーは、PR会社最大手の1つ、Hill&Knowlton社と契約をして、次の売りこみを考えてるようですね。
日本も早く対策考えないと、世界の視聴者を相手にしているアメリカのメディアに「アメリカに都合のいい」日本イメージを「世界の世論」にされてしまいます。
(おっと、つい、専門の話で興奮し、長くなってしまいました)
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