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コロンビア日記の部
 
 

新学期

学生が決めるニューヨークタイムズの社説

NYT記者 学生に貶(けな)される

大学院生活を振り返る

 

新学期 (1/22/00)

新学期が始まりました。いよいよコロンビア生活の最終学期です。基本的にあと2つ授業を取れば卒業できるものの、最後だと思うと、いろんな授業を覗いてみたくなるもので、急に忙しくなりました。

1つ目は、ライティングの授業。ニューヨークタイムズで常勤の社説担当(国際ニュース)であるバークレー教授が「締切りで忙しいから」という理由で、授業時間が夜8時から10時まで(!)にいきなり変更されました。

アフリカを中心に国際モノを20年以上追ってきたこの先生、94年にはルワンダに駐在していて、例の大虐殺を取材し、国際法廷にも証人として立ったことがあるそうです。後にこれが「ジャーナリストがニュースの現場に参加することの是非」というニュースで大きく取り上げられ、「ニューヨークタイムズにもかなり叩かれたけれども、何故かそのタイムズに雇われています。」と言っていました。

「戦争は得意やけど、お金は苦手なので、経済ニュースの授業は、ウォールストリート・ジャーナルから、友達の記者を呼びます。」なんてところもなかなかお茶目です。

2つ目は、「世論と政治行動」という授業。神経質そうな顔の、政治世論の権威であるシャピロ教授が、初回、無言でいきなり「中絶を法制化しているアメリカ行政区マップ」を配りました。そして、おもむろに「これで、何がわかりますか?」と聞くのです。この法制化されている行政区の差は、何の差か、その差は何が影響しているのか、また、法制化はどのような過程でなされるのか、民主主義って一体何か。そこまで話をして、「はい、こういうことを毎回テーマ毎に見て行く授業です。ではまた次回。」 

3つ目は、「Eコマースとマーケティング」。インターネットはどうなっているのか、そのビジネスモデルを学ぶ授業です。「コピーするのは手間なので、資料は、このサイトに全て載せてあります。」初めて聞いた時は驚きましたが、実は、コロンビアの売れっ子の先生は、各地で同じテーマの講演を何度もしてきているので、既にプレゼン資料が出来あがっていて、これをうまく利用しているのです。だから、授業には、逆にほとんど手間をかけません。

また、「ちょっとアンケートを取りたいので、来週の授業には、皆さん、パソコン持ってきてくださいね。」なんてことを言います。授業中、自分のパソコンを机のジャックにつないで、インターネット上で投票をするらしいのですが、「紙でやった方が早いで」と咄嗟に思った私は甘くて、実はこれ、「自動集計してデータとして蓄積しておく」とのこと。 さすがEコマースとマーケティングを教えている先生。

4つ目、アメリカ外交の歴史。スウェーデン国籍のイギリス・スターリング訛りで話す先生です。20世紀初頭から入るこの授業、ヨーロッパの哲学的な話から入るので、英語以外にフランス語とドイツ語とラテン語がちょこちょこ入ってきて、メモ取るのに大変です。書けないのですから! とはいえ、アメリカ人の友人曰く、「あの先生は、アメリカ人の視点とは全く違うものをもっているから面白い」らしいので、真面目に聞いて行くつもりです。

あと、「ニュースで使うレイアウト&グラフィックデザイン」と「贅沢品の生み出し方とマーケティング」なんていう授業を見に行く予定ですが、これは来週始まります。ん〜盛り沢山。

 

 

学生が決めるニューヨークタイムズの社説 (3/23/00)

ニューヨークタイムズの社説担当のバークレー記者が教える国際ニュースのライティング・クラスは、最近、学生によるNYタイムズ記事の感想の言い合いで始まることが多くなってきました。

学生:「昨日の、コロンビア(国)の社説は、先生が書いたのですか?」
バ先生:「そう。何か間違ってた?」
学生:「あの事件は、実は裏にこんな事情があって、そこを指摘しないと全体像が見えてこない」
バ先生:「そうか、有難う。次書く時には注意するよ。」

大手新聞社の記者でも、自分の書いた記事の反響を常に気にしていて、書いた翌日は、自分のメールボックスに、批判FAXや苦情電話のメモが入ってないかヒヤヒヤしていると暴露して以来(?)、毎週、学生がこの先生の記事を目ざとく見つけ、授業で指摘するようになってきているのです。

学生:「先週の、ミャンマーの社説は、先生が書いたのですか?」
バ先生:「そう。どう思った?」
学生:「びっくりしました。私が前回の宿題で書いた事件に触れられていたから」
バ先生:「うん。キミの文章を見て、刺激されたんだ。説得力あった?」

学生の書いてきた宿題の記事をかなり細かく批評するなど厳しい一面を見せながらも、「いや〜、明日からちょっと頭痛いんよ。ローマ法王(Pope)のこと書かなあかんねん。間違えると後が大変やからなぁ...」 なんて言うところがちょっとチャーミング。

こういったプラクティショナー(実務家)の教える授業が、日本の大学でも一般化されると、もっと社会と学問が近づいて来るのではないかと思います。

「先生、今週の週刊現代のスクープ記事。ウラとりがちゃんとできてなかったでしょう?」とか「景気対策に十兆円の財政支出を発表したと報じるのはいいけど、それが個人の生活にどう影響するのか書かないと、ピンと来ませんよ」なんて教室で話し合われるようになって来たら、面白いと思うのですけど、皆さんは、どう思われますか?

NYT記者 学生に貶(けな)される (4/9/00)

前回のつるつる通信にも書いた、コロンビアでライティングを教えるバークレーNYT記者が、「今、アフリカの専制政治をテーマにした本を書いてて苦労している」と言ったところ、学生に、「原稿読みたい」「この授業で習ったことを活かすとどんな文章が書けるようになるのか見てみたい」などと言われて、3年がかりで書き上げたという出版前の原稿の一部(前書き部分)を、しぶしぶ授業に持って来ました。

「まぁとりあえず読んでみて」と5分程度まず学生に時間を与えました。時折チラッと見てみると、学生の読んでいる様子を心配そうに見ています。

そんな顔見て思わず笑ってしまった私を、「何や、何わろてんねん」と神経質に指摘。

「よし、じゃあ、意見を。」と言った途端、学生が口々に、「言いまわしがシンプルすぎませんか?」
「これ、こんな話が12章も続くの? えー」
「暗い気持になる」
「あまりドギツイと、読者は読み進まないのでは?」

この直前に、これこれの単語が明確でない、意味をなさないなどと言われた学生が、「んー、このフレーズは、明確ではありませんなぁ」などと出る。

皆がドッと笑う。先生は、「その手には乗らんぞ」と返す。

ルワンダの虐殺を現地で目撃したこの先生は、一般人(多くは農民)が、どのように虐殺に関わっていったのかをリアルにしかも必要最低限のシンプルな言葉で表現しており、その文章の素晴らしさは一目瞭然です。学生はそれぞれ細かい批判をしながらも、内心、さすが20年以上のキャリアやな、と思っているようでした。

決して雄弁ではないけれど、ヒューマン・ドラマを追い続ける熱意と、言いにくい話でも難なく聞き出す術を持つベテラン記者。3ヶ月の授業ですっかりファンになってしまった10人ほどの学生は、

「最後の授業は、ニューヨークタイムズでやろうと思うけど、どう?」

と聞かれると、「そらもう、もちろん」と口を揃えて笑顔で答えました。

最後に一人が、「先生が原稿書いてる後ろで校正したげるで」

大学院生活を振り返る (5/3/00)

いよいよ二年間のコロンビア生活も終わりに近づいてきました。

コロンビアで得た最も貴重な経験は、勉強不足で何度も恥ずかしい思いをしたことです。少なくとも、まだまだ学ばなあかんことがよーけある、ということが分かりました。

よく「英語で、大変でしょう」と言われましたが、習得するべきフレームワークが理解できたら、言葉はそれほどネックにならないように思います。「メッセージ」が決まったら、スピーチするのもそんなに難しくない。

(そう言えば、マイアミに流れついたキューバ人の男の子、エリアン・ゴンザレスくんがマイアミの親戚の家から、移民局によって強制的に連れて行かれた時、いとこのお姉ちゃん(21歳?結構可愛い)が、記者会見で30分、原稿見ずに喋り続けてました。彼女は大統領と違ってメディア・トレーニングなんて受けてません。なのに喋れるのは、「言いたいこと」が決まってるからです。よく聞くと司法長官よりも説得力あるのですから大したものです。)

次に、「学び方」を学びました。これも大きい。材料の集め方、議論の立て方、交渉のし方。自分の考えのまとめ方。すべてに応用ができ、一生使える。

そしてコミュニケーション・スキルですか。アイデアを伝えることがいかに大事か、そして難しいかを知りました。そして、おそらくこの分野が、私のライフワークになるかもしれない、とも思いました。

まだまだ続けてやっていきたい事があるので、しばらく休憩(仕事)したらまた、研究できる環境を探したいと思っています。引き続き学生をやるのは体力(頭脳?)が持ちません。集中力のない分散型のヒトですから、学者になれないと思いますし。

留学の質問を頂くことが多くなってきました。近日中にFAQをウェブに載せる予定でいます。

 

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